堀新「13歳からの天皇制」読書感想文からの「現代日本人の意識構造」
著者のtweetで、自民の改憲草案だと、その気になれば自民党員すら不要になるという、まさに狡兎死して走狗烹らる的な点を見過ごしていたことに気付かせてくださったので、エゴサされていてもいいように書いた「13歳からの天皇制」(以下「本書」という。)の無難な感想文よりはもう少し個人的な感想文を上げることにしました。法的に興味深い話題の多い今でもエゴサしているかどうかは不明ですが。
なお、おそらくは著者も、やや政治的な色がついてしまうがゆえに参考文献には挙げていないけれど、目は通しているであろうNHK放送文化研究所編「現代日本人の意識構造 第九版」(以下「NHK本」という。)を基に、著者の普段のtweetに対するものも含めた感想文となります。著者の本書に倣い、敬称は省略しています。
(左から2冊目が本書)
天皇に対する意識の推移
NHK放送文化研究所では、1973年から5年ごとに日本人の意識調査を実施し、結果を書籍として「現代日本人の意識構造」にまとめていますが、その意識調査には「天皇に対する感情」も含まれています。
その推移が以下の通りです。
NHK本P.127~では、昭和から平成への代替わりや当時の皇太子(今上天皇)の御成婚による慶賀ムード、皇太子(今上天皇)夫妻の第一子誕生、その後の子育てのご様子などが伝えられることを通じて、天皇や皇室に親しみを覚える人が増えた、と分析しています。
また、天皇(上皇)の戦没者慰霊や自然災害の被災地訪問、退位の意向をにじませる「お気持ち」表明など、ご高齢にも関わらず公務を遂行されること等が尊敬の念を抱く人が増えた理由としています。
個人的にも、日本人全体の意識において天皇に好感や尊敬の念を抱く人が増えていると思いますし、その主な理由もNHK本の言う通りだと思います。
「尊敬」感の変化?
その中で「尊敬」については、一時低下基調にあったのが、再び上昇してきていますが、そこにおける「尊敬」というのは、従来は「エジソンは偉い人」的な「とにかく偉い人」「特殊な世界の特別な人」に対する「尊敬」だったのが、文言上は同じ「尊敬」という回答であっても、公務を通じて「自分たちのために膝をつき、祈り、一生懸命心を尽くしてくださる人」に対する「尊敬」に変化している、と個人的に思っています。
また「特殊な世界の特別な人」という感情の中には、多分に政治的な感覚もあったことと思います。ある意味では海外の大統領や首相に対する感情的な「尊敬」もあったのではないでしょうか。そうした意味での「尊敬」が、公務を通じて形成された「尊敬」に変わってきたのが、平成31年間の流れのように思います。
より身近な存在としての「好感」
「好感」が上昇していることも、同様に皇室の方々への意識が「特殊な世界の特別な人」から、本書の著者が言うように自分たちと同じように「現代の社会を生きる人」へと変わってきたことに依るものと思います。
数年前の天皇(上皇)誕生日に、若い女性が天皇(上皇)の写真をデコレーションして、あたかもクラスメイト宛てのような軽快なメッセージを添えて誕生日を祝う画像がインターネットで話題になりました。そうした現象もまさに天皇(上皇)も自分たちと同じように「現代の社会を生きる人」という意識から出てくるものでしょう。
(仮にあの画像が、誰かが若い女性のふりをして作成したネタ画像だったとしても、PCやスマホの普及云々は別として、昭和の時代であればそのようなネタに走ろうという意識自体が生じなかったのではないでしょうか。)
そこまで極端に自分たちと同じ「現代の社会を生きる人」とまで思わないとしても、「好感」を抱いている多くの人の目には、天皇(上皇)の公務や皇太子(今上天皇)の子育て等を通じて、皇室の方々が「特殊な世界の政治的に特別な人」ではなく、自分たちと同じ世界の延長戦上にある、ある意味では「私利私欲のない」「理想の老夫婦」「理想の家庭」として映っているのではないでしょうか。
求められ許容し得るイメージ
本書の射程からは外れますが、そうした「理想の老夫婦」「理想の家庭」としての天皇(上皇)、皇室というイメージを象徴するのが、皇室カレンダーかと思います。私自身も購入したことはありませんし、購入したことのある方は爆発的に多いというわけではないでしょうが、上皇、天皇、皇嗣の家族勢ぞろいの写真が一面を飾っているところを見たことのある人は多いのではないでしょうか。
おそらく皇室カレンダーの写真選定も、宮内庁や外郭団体等含めたその周辺の方が人々に見せたい皇室のイメージと、皇室カレンダーを例年買うような人々が求めている(と宮内庁やその周辺の方が考える)皇室のイメージの折り合いがつくような写真が選ばれているものと思われます。その意味で天皇、皇室への意識が反映された写真となっていると思われます。
※いつから皇室カレンダーが頒布販売されているのか詳しくはありませんが、皇室カレンダーを10年単位で収集していけば、人々の皇室へのイメージの変化が見て取れるのではないかという気もします。
そして日本国憲法へ
そうした自分たちと同じ「現代の社会を生きる人」としての「私利私欲のない」「理想の老夫婦」「理想の家族」としてのイメージが「好感」として多くの人々の間に広まっているとすれば、著者が本書の終盤で述べた意味では、「可能な限り基本的人権を保障されるべき皇族」観が優勢になっていくと思われます。天皇(上皇)の退位の特例法制定にあたっても、そうした皇族観の影響があったと思われます。そして「特殊な世界の特別な人」としての「尊敬」観を重視する人とはだいぶ意識が異なることでしょう。
今後、皇位継承に関して皇室典範の改正に留めず、憲法改正に絡めるような意見が出てくる可能性はありますが(今も時々いますし)、天皇や皇室、皇族に対するどういう意識やイメージがどの程度広がっているのか、その辺をつかみ損ねると、いくら「皇位というものについて分かっていない」などと言おうとも世間的な共感を得られない場合もあり得ると思います。東海地方の芸術イベントへの批判も、「特殊な世界の特別な人」としての「尊敬」観を重視する人たちの言説がかえって、自分たちと同じ「現代の社会を生きる人」としてのイメージを強化してしまった側面があるように。
最後に
結局あまり取り留めのない、結果的には角の取れた感想文となってしまいました。ただこれを書く過程で皇室カレンダーの写真の順番や選定が一部の人にとってはけっこうゴシップ的だったり、スキャンダラス的だったりすることが分かったという意味ではとても収穫がありました。
なお、芦部や「憲法ガール」、佐久間「民法の基礎」や潮見イエローと並んでいる画像をサムネとしてみました。これで本書も受験生に爆売れすること間違いありません。
今更だけど、芦部の○版と□版も捨てなければよかったな、とやや後悔。
芦部の「憲法学」や長谷部は裏にあるけれど、普段あまり目を通していません。